吸血喫茶

赤き月家族はみんな殺されて血塗れた女が剣を翳す

気が付くとかの女いて艶やかに嗤う 異形の世界へきた、と

吸血鬼堕ちしこの身は旅に出る我を愛する敵と供に

愛しきを奪いし者へ憎さ増し比例すやうに愛に捕らわれ

ぎりぎりの沸点間近 憎しみと愛鬩ぎ合い我は逃げる

旅をする我に降り積む二百年異形の村へと流れつきたり

異形郷魔女の娘と恋をした祖国を追われた日本青年

混血に生まれし少女十三になりし春日にそれは起こった

全体主義国家は村をレジスタンス拠点と見なし攻め入ってきた

混血で力を持たぬ少女なら我が血を与え力与える

戦乱(あらそい)後異形となった少女ルナ 我が子と称し旅へ再び

この血ゆえ昼生きられぬ我らなら夜間喫茶を各地で営む

ひとかけらパン盗ろうとこし猟銃で撃たれし少女転がる路傍

褐色の肌に残れる微かな息に我が血を与え永らえさせる

「身寄りなく身を売ることもあったけど好きぢゃなかった」シェーダは云った

三人の異形となって少女らが成長せぬ故流離う我ら

ひとり住む老婆に親しむシェーダだが己の正体明かせもせずに

「花嫁姿見るまで死ねぬ」と云うけれどシェーダにその日は永久に来ぬもの

夜間喫茶はルナの郷へと 散り散りの異形の者ら相集うため

異形郷今はすっかり別の街住人たちも異形ではなく

教会の孤児院に住む少年とルナは出逢ったり裏手の墓地で

他愛なく遊ぶふたりの初恋にルナは己の正体告げられもせず

少年を仲間に引き入れても良いと我は許すがルナは躊躇う

蜜月のような時間は束の間に終わり再び街は戦場

全体主義国家は見なす一族の集いを勢力再集結と

呪われた血ゆえの力発揮して闘う街を守らんために

異形たる力のゆえに兵士らは畏れをなして逃げ帰ってく

訪れた平和の後に残れるもの変わってしまった人々の視線

愛すべき街守るため我々は此処に留まることは赦されぬ

異形らは流離い続け永久になき安息の地と眠りを夢見

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