禁句――弟はやさしさのオバケみたいミカヅキカゲリ

「通院ははっきり云えば惰性です」
口の中で、転がしすぎたセリフ
音にした途端、
躰から汗がぶわわわわっ、と噴き出す

カウンセラーが平たい声で云う
「そうなんですか?」
また、焦る
「あ、ごめんなさい!」
結局、わたしがなにを云おうとおなじなんだ、と思う

隣で聞いている弟には、どう聞こえているのだろう

このあいだ、父が云った
「あいつ、ヤングケアラーぢゃなくなってきたの、ケアラーだけどヤングやない」
わたしの小さな弟!
幼いころから老成した雰囲気を纏っていた弟!
わたしが自殺未遂をして、車椅子になった時点から人生をわたしに潰された弟!
(本人の認識はともあれ、周りの人からはそう云われる)

弟はやさしさのオバケみたい
わたしのトイレ介助まで、当たり前のようにやってしまう

5つも下なので、つい小さな弟と云ってしまうけれど、
弟も中年と云ってもかまわない
おやつが好きすぎて、引くほど巨大なおなか
小さな弟のイメージからは、おどろくほどとおい見た目、邪気がない人柄

すごいね、よくしてくれるね、
仲良しだね
カゲリがいいお姉さんってことやろ

髪を梳かしてもらいながら、
ちがうよ、と思う
ちがう、弟が異常なんだ
やさしさのオバケなんだ

通院に来てくれる弟の前で
わたしは禁句を口にした
弟はなにも咎めない

なんで、そこまでやさしいの、
やさしい は かなしい みたい

ぐるぐるする
弟を好き、と思うほど
わたしに潰されていなければ、
消えてしまいたい!
とも思う

だけど、
ああ、だけど、
それでは、潰された弟の人生が浮かばれないだろう

だから、
わたしは最大の禁句を飲み込む
弟だけの人生には気づかないふりをする

やさしいオバケが浮かばれなくならないように

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